[東京神田] 文房堂

1987
文房堂
#文具店
すずらん通りは昔は九段への幹線だった「表神保町」の通りだった。
靖国通りはむしろ「裏神保町」と呼ばれていた通りで,後に拡張されて幹線となった。
今改めて見直してみると戦前のままの建物は数えるほどしか残っていないことに気がつく。
日頃から古雅な外観が気に入っていた「文房堂」の店内を覗く。
1階は画材と文房具,
2階は版画・彫刻の制作用具,
3階は額専門
となっている。
2階の画材や文房具が並ぶ中に,リトグラフ用のプレス機が2・3台置いてあった。
一つは昔風の重厚な鉄製のプレス機で,私が全力を出しても微動だにしない。
この文房堂の建物は関東大震災前の大正10年(1921年)に建てられた。
天井が高くて床がしりしていて,これほど重い機械が何台あってもビクともしない。
文房堂を出る。左に折れて,すずらん通りから文房堂脇の細道をゆく。
文房堂の3階建ての土蔵が左に見えている。
すずらん通りを東から入って一番最初の横町を左に曲がると左手に見えてくるのが三階建ての石造りの文房堂の倉庫である。
画材店の文房堂は,明治20年6月6日に創業者池田治郎痔瘻によって開業した。
西洋絵画の研究をして,8年間という長い研究年月の後に油絵の具を売り出したというエピソードが残っている。
クリスマスカード,ペーパーナイフなどの西洋書斎文具もいち早く輸入して,当時の店内は西洋の香りに満ちていた。
すずらん通りから左に入ったこの辺り一帯は昔「神田村」と呼ばれていたところだ。
図書取次店がひしめきあっていて,店先には雑誌や新刊書が色とりどりの表紙を見せて平積みされていた。
顧客の探している本や追加注文の雑誌を仕入れる書店員たちがそこかしこを自転車で走り回っては,仕入れた本を荷台に積んでいた。
新撰東京名所図会-神田区之部,明治33年
東京路上細見一,林順信著,1987

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