浅草ROXビル

浅草


1989
ROXビルは松竹演劇場跡地に建てられ,昭和61年にオープンした。
地上9階・地下1階のビルで, 6・7階には結婚式場宴会場があり,8・9階はスポーツクラブとなっている。
他の階には各種のテナント入っているが,大型書店が入っている4階を除いて中心は洋服と服飾雑貨の店。
原宿青山で見るようなブランドものが多く,若年層に的を絞った大型ショッピングセンターと言える。
ビル外壁は淡いグレーとピンクのツートンカラーで,これも原宿青山風だ。
残念ながら,窓面積が非常に小さくて閉鎖的な作りなので,このビルから眺望を楽しむことができない。
店内はやはり若い女性や学生の姿が目につく。
その中をかいくぐり浅草六区興業街に出ると目の前が「常盤座」。左に「特選洋画」の「東京クラブ」,右に「浅草松竹」がある。
この興業街を雷門通りのほうに向かっていくとすしや通りとなる。
歩けば肩と肩のぶつかるほどに混み合ったかつての賑わいはすっかりなくなった。
日曜日・祝祭日にはまだ人出もあるが,平日の昼下がりにはこの通りは閑散そのもの。サンドイッチマンの姿がもの悲しく見え,浅草演芸ホールの呼び込みの声が大きく響いている。
浅草演芸ホールと隣り合う「フランス座」にぼつぼつと客が入っていく。
サンドイッチマンの傍ら大杉フランス座の反対側に曲がる。
飲食店の立ち並ぶ三角地帯がかつて「オペラ館」のあったところ。
明治42年(1909年)に活動写真の常設館として開場した「オペラ館」は,芝居・オペラ・映画などを興業したが,昭和19年に強制疎開で廃館となった。
最後の興業日にオペラ館を訪れた永井荷風は,「断腸亭日乗」に
「オペラ館は浅草興業物の中真に浅草らしき遊蕩無頼の情趣を残すし最後の別天地なれば,その取り払われるとともにこの懐かしき情味も再び味わう事は能はざるなり」
と記し,さらに
「一人悄然として楽家を出るに,風冷なる空に半輪の月光浴びて,路暗からず」
とも述べている。
さらにオペラ館の南側には「千代田館」,「電気館」があったが,その「電気館」の裏に永井荷風がよく通った「峠」と言う喫茶店があった。
「峠」は10年ほど前に「峯」と名前を変えて現在はトンカツ屋となっている。
さてそのオペラ館の一角にある「荒井屋」は私の気に入りの飲み屋。
六区のちょうど真ん中あたりに位置するところから,仲間内では「へそ」で通っている。
以前はよく「今日,へそへ」と誘いがかかって喜んでこの荒井屋に来たのだ。
様々なツマミが揃えてあって安くてとにかくおいしい。
しばらく行った突き当たりで左折し最初の十字路を右に曲がる。
木馬館のあるこの通りが五重塔通り。
前方に五重塔が意外な近さで現れる。
「木馬館」は芝居や歌謡ショー行う劇場で,「木馬亭」の方が浪曲の定席。
木馬亭の入り口正面には木馬の模様がシンボルとして飾られている。
木馬館の隣は「浅草奥山苑」という店。経営は雷おこしの製造販売元「常盤堂」である。1階が宮城売店ミルクホール,2階から3階の歴史資料館にはミュージアムとなっており,入場料700円。チケットを買うとパンフレットの他に雷おこしを1枚くれる。
ー東京路上細見,小森隆吉,平凡社

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