[山梨富士五湖] 村田らむ: 青木ヶ原樹海で発見した謎の宗教施設を再訪してみた
青木ヶ原樹海の探索で宗教施設を発見…「こうして会えたのは運命だね!!」修行を続ける男女に話を聞いてみた
7/20(火) 17:12配信
村田らむ
富士山北西に広がる青木ヶ原樹海はさまざまな都市伝説が語られ、多くの人に知られているエリアだ。しかし、その内部がどのようになっているのか、詳細が語られることはほとんどない。 ここではルポライターの村田らむ氏の著書『 樹海考 』の一部を抜粋。20年以上にわたって樹海を訪れ続ける同氏が青木ヶ原樹海で発見した謎の宗教施設について紹介する。
■宗教施設を発見
サブカル系雑誌の編集者女史と僕は、遊歩道をひたすら歩いていった。アスファルトだった道は、途中から砂利道になった。かなり坂道もある。樹海に入ったのは午前中だったが、警察を待つ間に14時を回ってしまった。樹海は日が落ちるのが早い。すでに薄暗くなってきている。 入り口から30分ほど歩いたが、宗教施設らしい建物は見当たらない。具体的な情報は、レストラン「ニューあかいけ」(編集部注:筆者が樹海を訪れる際によく訪れる精進湖近くのレストラン)のおばちゃんの証言だけなので、かなり不安になってくる。
「本当にあるのかなあ、そんな施設」
「あると信じましょう! 信じればきっとありますよ!!」
そんな不安な会話をしながら進んでいると、道が二股に分かれていた。 そして片側には、工事現場などでよく見るバリケードフェンスが建てられていた。普通なら「安全第一」と書かれたボードが掛けられている所に「乾徳道場」と書かれた木の板が掛けられていた。 「おお! あった! この先にあるみたい!!」 宗教施設がある確信を得られて心底ホッとする。そこからさらに10分以上進んでいくと、急に道が開けて人工物が出てきた。 新興宗教施設というから、怪しげなDIY感あふれる建造物が出てくるかと思っていたら、プレハブの倉庫みたいな建物だった。 その建物を横目に、さらに奥に進んでいくと母屋が現れた。こちらは木造の建物だったが、予想以上にしっかりと造られていた。 建物の前には鍾乳洞があり、その入り口にはお供え物が置かれていた。鍾乳洞の上には、お墓が並んでいる。時代はまちまちだったが、崩れて字が読めなくなったかなり古い墓もあった。この施設ができるよりもずっと昔から建っていたようだ。 建物には紙が貼られていた。 祈りの言葉 実在者(おおがみさま)の御心が此の世に 顕れますように 一、神(諸法実相)の国が開かれますように 一、凡ての人が神(諸法実相)に蘇りますように 「わ~、これはいかにも新興宗教だわ……」 編集さんと2人でしばし固まったが、このまま軒先で躊躇していても始まらない。引き戸をノックした。 しばらくして鍵を開ける音がして、ドアがガラガラと開いた。
■「今大事なプロジェクトが進行中なのよ」
かなり年配のおばさんが立っていた。 「あら~、何、ここを尋ねていらっしゃったの?」 と聞かれた。はい、噂を耳にしまして……と正直に答える。 「普通の人なの? 学生さん?」 とりあえず、学生ではないです、普通の人です、と答える。 「そうならばいいけど、今大事なプロジェクトが進行中なのよ。だから外部に情報が漏れるのはヤバイのよ」 と言われた。なんと答えていいか分からず愛想笑いをしていると、とりあえず中に入って、と招き入れてくれた。 「あの人ちょっと出かけているから、帰ってくるまで待っていらして」 と居間に通された。屋内はかなり広い。居間の隣の部屋は修行部屋だという。 仏壇が設置されており、その横には黒板が置かれ、仏陀の逸話が解説されていた。表の貼り紙を見て、なんとなく神道系なのかな? と思っていたので少し意外だった。 しばらく、じっと居間で待っている。出してもらった茶と茶菓子を食べていると、ガラガラと戸が開き、僧形のおじいさんが帰ってきた。さきほどのおばさんが、僕たちがここにお邪魔している事情を説明する。
■「こうして会えたのは運命だね!! 運命なんだ」
「そうか。待たせて悪かったね。昨日までは他県にいたんだ。こうして会えたのは運命だね!! 運命なんだ」 いきなり熱く語りだした。 「ここは道場なんだ。道という漢字の意味が分かるかね?」 突然の質問に、「え、ああ……分かりません」と、しどろもどろに答える。 「辶(しんにょう)は車という意味なんだ。米を車に載せたら『迷い』になる。そして首を載せたら『道』になる。道場に来るならば、真剣になって首を持ってこい!」 おじいさんはいきなり荒ぶった。 これは厄介な所に来ちゃったぞ……と自覚する。背中につつっと汗が流れた。 おそるおそる、どうしてこの場所で新興宗教を始めたのかを尋ねてみた。 「ワシは太平洋戦争で死ぬ気だったんだ。しかし入隊した途端、戦争が終わってしまった」 目的を失ってどうしていいか分からなくなったおじいさんは、自殺しようと思って樹海をさまよった。10年間さまよった挙げ句、この場所にたどり着いたそうだ。 「最初は何もない場所だったが、里の人達が、死なれては困ると言って小屋を建ててくれた。そして修行をしたのだ」 一時はここに通ってくる信者もいたらしい。麓から歩いて4、50分かかる場所だ。通ってくる方も大変だったろう。
■「神の国、そこには人類はいない、人がいない世界なのだ!! 」
おじいさんはA4サイズの紙とハサミを取り出して机の上に置いた。紙を複雑な形に折りたたむ。 「このように紙を折って、そしてハサミを入れると、なんと……十字架になるんだ!」 たしかに、紙を戻すと十字架の形になった。 「そしてなんと……残りの紙片を戻すと、『HELL(地獄)』の文字になるのだ!!」 かなり強引だが確かにHELLになっている。 「これが発見された時、全米が絶望に打ちひしがれたという……」 そんな話は聞いたことがない。 「しかし私は新たなる並べ方を発見したのだ! これをこう並べると『日本』になるのだ!!」 HELLよりもさらに強引だが、一応日本という形にはなっている。 「そうなのだ!! 日本は特別な国なのだ!! 自覚せよ!! 日本は宇宙の神、数千億の星を支配する神のおわす国なのだ!!」 おじいさんはどんどん激昂していく。 「私は神に聞いた。なぜ神は世界を創ったのか? と。すると神は、世界など創っていないと言ったのだ。私は驚いた!!」 こんな話が延々と続いていく。 すでに日は落ちて室内はかなり暗くなっている。おじいさんとの距離感が分からなくなり、頭が痛くなってきた。 話の途切れた頃合いを見計らって、ここは具体的には何をする道場なんですか? と聞いてみた。 「ここは神の国が来る日を自覚する道場なのだ」 ……神の国ですか。 「神の国、そこには人類はいない、人がいない世界なのだ!! 私たちは人類を終わりにする仕事をしている。もうすぐその時が来るのだ!! 今日会えたのも運命、来る日に備えなさい!!」 と一気に語り終えた。 編集さんが小さい声で「……もろにカルトじゃないっすか」と囁いた。
「よし、下まで送っていってあげるよ」
しかし、話が終わるとなごんだ雰囲気になり、 「ご飯食べていきなさい」 と、おばさんが夕ご飯を出してくれた。 今日は買い出しに行ったから、いろいろあってよかったわ、と目の前に皿が並べられる。 混ぜご飯、ジャガイモの煮物、漬け物、だった。味は悪くないのだが、冷たかった。 室内はすっかり暗くなって、顔の判別がつかなくなっている。なんだか悪夢の中にいるような気持ちになってきた。 ただ、これは夢ではない。現実であり、このあと麓まで戻らなければならない。今はまだギリギリ陽光があるが、すぐに真っ暗になってしまうだろう。樹海の夜は経験済みだが、懐中電灯を持っているとはいえ、あの闇の中を歩くのは不安だ。
「よし、下まで送っていってあげるよ」
と言うと、おじいさんは立ち上がった。 最初に見つけたガレージを開けると、立派な4WDの自動車が収納されていた。樹海の山奥で暮らす修行僧のイメージと、4WDの自動車はかけ離れていたけれど、とにかく助かった。 自動車で下るにはかなり激しい道程だが、さすがに慣れているようですぐに麓に着いた。 僕らはおじいさんに礼を言って帰宅した。
■宗教施設の由来
この「乾徳道場」には、その後も何度か足を運んでいるが、2人に会えたのはたったの2回だけだった。2010年に会って以降は、何度出向いても誰もいなかった。どうやら、すでに立ち退いてしまったようだった。初めて取材した時にはすでにお年寄りだったので、樹海で生活を続けるのはつらいだろうと思う。 建物を改めて見ると、本当にかなりしっかりと建てられている。そもそも、なぜここに道場を建てようと思ったのか? その理由は、もともとここに施設があったことによるらしい。 かなり古いお墓が、建物の周りにいくつも並んでいるわけだから、ここに参拝する人がいたのは確かだ。ではなぜここをそういう場所にしたのか? それはおそらく洞窟があるからだ。 初めて行った時はフタがされていたので気づかなかったが、洞窟があるのだ。よく見ると
『精進御穴日洞』
と白いプレートがついている。樹海で発見された洞窟には名前がついていることが多い。 以前来た時に、おじいさんに言われたことがある。 「この洞窟では昔の修行僧が行を行い即身仏になったんだ」 即身仏ということは、穴の奥には僧侶の亡骸があるということだろうか? そう思い、懐中電灯を片手に穴に潜ってみた。
■こんなに狭くて暗い場所で修行を?
樹海は溶岩の上にできている森である。洞窟は溶岩洞と呼ばれる種類のものだ。 入り口の急な坂を降りる。もちろん真っ暗だ。懐中電灯で照らすと、想像よりずっと広かった。奥に進むにつれて天井が低くなってくる。中腰にならないと進めない。 溶岩なので、表面はゴツゴツとおろし金のように尖っている。頭がゴリッと擦れると、ひどく痛い。だからといって、膝をつくとそれもまた痛い。関節に強い負担を強いながら、なんとか前に進んでいく。ちょっと閉所恐怖症&暗所恐怖症の人は入れない場所だ。 洞窟の中は寒い。冬だったのでツララができている。まるでアクションゲームのトラップのようで危ない。紫色の木の実のような物がいくつかぶら下がっている。なんだろう? と思って近くに寄って見てみると、コウモリだった。冬眠しているようだ。表面はしずくでビチョビチョだが、ゆっくり静かに呼吸している。この体勢のまま春が来て暖かくなるのを待っているのだ。ある意味、修行僧より過酷である。 姿勢がきつくて腰が爆発しそうだが、それでも頑張って進んでいくと、石碑が出てきた。お墓かと思ったがどうやら違うらしい。 表面に赤い文字が彫られている。なんとか読める部分を書き出すと、
庄司 50日行 1000人供
御胎内開山大先達誓行徳山
神前
之富士門金佐伸
はっきりとは分からないが、どうやら洞窟の中で50日間の“行”をしたようだ。 こんな狭くて暗い場所に50日もいたのか、と想像するだけでゾッとする。怖くなってきてしまい慌てて外に出た。 どうやら、本当にここで修行をした人はいたようだ。乾徳道場が建つ前から、お寺的な建造物があり、修行がなされていたのかもしれない。 ただ、もう今となっては確認する手段はない。
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最終更新:7/20(火) 18:12
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