[東京浅草]常盤座







1937
昭和12年,私が初めてオペラ館や常盤座の人たちと心易くなった時,既に震災前の公園や凌雲閣を知る人は数えるほどしかいかなった。
昭和の世の人達には,大正時代の公園はもう忘れ去られていた。
その頃オペラ館の舞台で観客の喝さいせられていた人達の大半は震災後に東京にでてきて成功した地方の人のみだった。
しかし,この時代も忽ちにして昔となったのだ。
平和の克復したこの後の時代に,ジャズ模倣の名手として迎えられるべき芸人の花形は,朱塗りの観音堂をみたことのない人ばかりになるのだ。
時代は水のながれるように絶え間なく変わってゆく。
人はその命の終わらぬ中から忘れ去られてゆく。
その事に思いいたれば,生もまたその淋しい事において,甚だしく死と変わりがないのだろう。
―永井荷風,草紅葉,

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