鉄道唄歌





1905年
鉄道唱歌
玉の宮居は丸の内
近き日比谷に集まれる
電車の道は十文字
まず上野へ遊ばんか
♪♪
左に宮城おがみつつ
東京府庁を右に見て
馬場先門や和田倉門
大手町には内務省
♪♪
渡るも早し神田橋
錦町より小川町
乗り換えしげき須田町や
昌平橋をわたりゆく
♪♪
神田神社の広間を
すぎて本郷大通り
右にまがりて切通し
仰ぐ湯島の天満宮
♪♪
いつしか上野広小路
さて公園に見るものは
西郷翁の銅像よ
東照宮のみたまやよ
♪♪
博物館に動物園
パノラマ美術展覧会
不忍池畔の弁財天
四季の眺めもあかぬかな
♪♪
浅草行に乗りゆかば
左に上野ステーション
走るも早し車坂
清島町をうちすぎて
♪♪
はや目の前に12階
雷門より降りたれば
ここ浅草の観世音
詣でる人は肩を擦る
♪♪
五十の塔よ仁王門
水族館よ花やしき
おどり玉のり珍世界
奥山あたりのにぎやかさ
♪♪
さて浅草より上野へと
帰る電車の道すがら
甍の空に聳ゆるは
名高き東本願寺
♪♪
電車は三原のたもとより
行くては昔の御成道
万世橋をうちわたり
内神田へと入りぬれば
♪♪
須田町鍛冶町うち通り
今川橋よ本石町
室町すぎて日本橋
さても都の大通り
♪♪
京橋わたればさらにまた
光まばゆき銀座街
路には煉瓦をしきならべ
並木の柳風すずし
♪♪
銀行・会社・商館の
ならべる大廈高楼は
いずれも石造・煉瓦造
目を驚かすばかりなり
♪♪
新橋わたりて左には
同じ名のあるステーション
線路は同じ大通り
芝の町町通りゆく
♪♪
大門町の左には
電車鉄道会社あり
ほどなく高輪泉岳寺
47士のあとも訪え
♪♪
さて品川につきぬれば
横浜・川崎・羽根田へと
通う電車も開けたり
げにも便利のよき事や
♪♪
―日本唱歌集(岩波文庫,1958年刊)

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