千代田館







トーキー(無声映画)時代の映画館。

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1928
パノラマ館
萩原朔太郎
聞け、あのかなしげなオルゴルはどこに起こるか
忘れた世紀の夢をよびおこす、あの古めかしい音楽の音はどこに
さびしく、かなしく、ものあわれに
ああ、マルセーユ、マルセーユ、マルセーユ・・・
どこにまた遠く、遠方からのラッパのように
錆びある朗らかのベースは鳴りわたる
かの物憂げなベースは夢を語る
「ああ、ああ、歴史は忘れ行く夢のごとし
時は西暦1815年
所はワーテルローの平原
あちらに遠く見える一葦の水はマース河
フランスの皇帝ナポレオン一世はこの所にて英普連合軍と最後の決戦をいたしました
こなた一帯はフランス軍の砲兵陣地
あれなる小高き丘に立てる馬上の人は
これぞ蓋世の英雄ナポレオン・ボナパルト
・・・・」
明るき日光の野景の涯を
わびしき砲煙の白くただよふ
静かな白日の夢の中で
幻聴の砲声は空に轟く
いづこぞ、いづこぞ、
かなしきオルゴルの音は地下にきこゆる
あはれこの古びたパノラマ館
かしこに時却の昔はただよひいる
ああかの暗い通路の向こうに
テントの青い幕の影に
いつもさびしい光線のただよいいる
―萩原朔太郎詩集,1928年初刊,
―日本の詩歌11-萩原朔太郎,中公文庫,1978年刊,

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