東京空襲








1945
3月7日の夜半、空襲警報とともに飛来したB-29爆撃機の大群が千葉の上空を北上していきました。
近くの高射砲台からめくらめっぽう撃っている弾にあたって火を噴く敵機があると、
避難場所になっている営庭のあちこちから歓声があがりました。
穴から出て遠く東京の方向をみると、
地平線ちかくの空に、消えかけの花火のような光がキラキラゆっくり降っているのが見えました。
空襲が終わって夜明けちかくに見たその辺りは落日のように真っ赤に染まっていました。
軍隊は我々新兵にラジオも聞かせず新聞も読ませませんでしたから、空襲の被害はあまり知らされませんでした。
でも、隅田川が焼死体で埋まったというような話を聞くたびに、
あの夜、夕ばえのような空をながめていたあの夜半、一夜にして命を失った数十万近い人達の悲痛な叫びを遠く聞いていたような幻聴をおぼえるのです。
―モグラの歌―アニメータの自伝,森やすじ著,アニメージュ文庫

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