[鉄道] 国鉄経営状況










国鉄経営の現状
1981年
経営的には満身創痍
国鉄は1963年まで黒字を実現できていたが,1964年以降今日まで常に赤字,1971年からは償却前赤字に陥って,今日まで改善されるところはない。
ここ数年,赤字は年8000億円から9000億円を続けている。
1976年にはそれぞれの累計赤字3兆1600億円余りのうち2兆5400億円余りを棚上げして,資本金のうちの5604億円を減額して累積赤字の大部分を消した。しかしその年も9000億円を超える赤字を生んで,1979年には再び3兆5000億円の累積赤字となって,再びこれらの額の棚上げを余儀なくされた。
200を超える国鉄路線の家で黒字は
新幹線,
山手線,
他5社
のみ(1980年度),他はすべて赤字である。 
その内容を見ると,
1978年度の赤字8664億円
のうち,
貨物の赤字は6076億円,
営業ケースは297
となっている。つまり100の収入を上げるのに実に3倍近い費用を要しているのである。
なぜこのような状態になっているのであろうか。理由は明白である。1965年以降のわが国の自動車輸送の発達が国鉄貨物の競争者としてこれを圧迫したため,国鉄の使用は年々落ちて,しかも国鉄貨物は自動車との競争上料金を引き上げることが難しい状況に追い込まれたからである。
しかし国鉄の赤字のうち貨物の赤字が他を離して大きく,貨物の再建なしに国鉄の再建はないところから,国鉄再建は極めて困難であることがわかる。
国鉄貨物の全面廃止,それによる大幅経営縮小,これ以外経営の立て直しは考えられないのかもしれない。
確かに赤字に悩む国鉄の中にあって,新幹線は営業係数60前後を続けており黒字である。しかしそれは新幹線だけをとったからであって,山陽新幹線ができることによって従来まで経営が良かった山陽本線が大きく落ち込んだことを新幹線の投資効率の中に勘定しなければ,真の意味での新幹線の投資効率にはならない。
こうした計算の第一次接近として,もし山陽新幹線5在来線の複々線化と考えると,前者のみの営業件数約90に対して,両者合計130前後,つまり100の収入に対して130の経費を必要としているのはここ数年の平均的姿である。確かに東京〜大阪間は新幹線だけだと営業ケース50以下で在来線と合計した場合でも90付近であって,黒字である。しかし山陽新幹線にしてしかり,東北新幹線,北陸新幹線など営業は決して国鉄経営上プラスにはならないのである。
21世紀を担う国鉄。それは新幹線網であり,それのみがモータリゼーションの波と戦えるものであるにもかかわらず,経営的にこうした問題が存在するのである。
在来線の国鉄旅客を見ると,ここでは経営が過密・過疎の影響をまともに受けている。
地方交通線では沿線人口の減少,自家用車の普及などによって乗客は減少して,また定期客が全体の2分の1,そのうち割引率の大きい通学が約60%を占めている。こうした結果,地方交通線の営業係数は平均して427(1979年度)であってこれが1000を超えるところもある。
他方大都市においては人口集中に伴う混雑を緩和させるために,巨額の投資を必要として,これかろ経営を大きく圧迫する一因となっている。
加えて東京などのように国鉄と私鉄が平行して走っているところでは,国鉄の運賃は私鉄に比べて著しく高くなって,この面からも運賃の引き上げが難しくなっている。ただし地方の私鉄は概ね国鉄の2倍であって,国鉄の全国一律賃率が現状にそぐわなくなった面を無視することができない。
このような国鉄経営の悪化に対処して1980年11月「日本国有鉄道経営再建促進特別措置法」が成立, 1981年,経営改善計画が発足した。
この計画は,
経営の合理化に努め, 1980年度41万9,500人の職員数(予算人員)を1985年には35万人に縮小する,
鉄道特性の発揮しがたい路線輸送密度1日1キロ平均4000人以下の特定地方交通先は,順次バスに転換して縮小を図る(当面は輸送密度2000人以下を転換する),
地方交通線については特別運賃を設定してこれを引き下げる,
関連企業の利益のうちで1985年までに5000億円程度を吸い上げて,国鉄の赤字を埋める,
などを骨子とするもので, 1985年度には幹線における収支均衡を達成しようというものである。
この計画を「後のない計画」と国鉄自らが呼んでいるように,従来ない大胆なものであるが,こうした計画をもってしても,今後開業する新幹線(東北新幹線,北陸新幹線)に伴う赤字は除外されている。また特定人件費の増加によって7700億円の赤字が単年度で発生するなど,経営の改善は事実上実現できないものと思われる。
モータリゼーションの進行によって客と貨物を奪われて,飛行機の発達によって遠距離客を失う,という国鉄の姿は日本だけではなく,先進資本主義国一様の姿である。
しかし日本ではドイツ・イギリスなどの鉄道が輸送する重量貨物の多くを内国海運が分担して,加えてドイツ・イギリスの石炭のような特定物質をエネルギー革命その他によって失っている。しかも先進国のように鉄道特性のない路線からの撤収が政治的に制限されており,思うにまかせない。加えて,政治的要求が不採算の新規路線の建設をしている。
先進国では政策割引に相当する金額を鉄道に保障しているか,これも日本では実現されていない。
しかし問題はこうした客観的条件だけではない。
今もし首都圏等の過密対策として20年間にわたって年60億円程度の黒字を生んできた山手線の利益をこれに投入していたならば,第二山手線をはじめ一大都市交通網が整備されてそれなりの収益を得ていたであろうしかし実際にはその利益を吸い上げて地方線に授入していた。大都市から金を吸い上げて,それを地方が使うと言う戦後の政治がこれを加速したのである。
それと同時に地方交通線にしても私鉄の場合には(合理化のために運賃が国鉄の2倍であるため)に乗車密度4000人以上は黒字であるのに国鉄は8000人以下で赤字である。
大井川鉄道のごときは乗車密度2000人以下でも関連企業を含めることによって経営を維持している。もし地方交通線を国鉄から分離してそれぞれの地域で独立の形態として経営にいれれば廃止することなく維持出来る路線も多いと思われる。
またバスに転換すれば赤字が縮小すると言うけれども,その実態は両者の運賃,特にその定期代の違いである。
過疎地域で国鉄バスに転換すると1日何便も出せるようになって,しかも停車間隔も縮まる等の利便が生まれるが,運賃を定期代で見ると何倍にも跳ね上がる。もしこれだけの運賃を国鉄に支払う用意があるならば国鉄路線を維持することも可能であることをに注意する必要があろう。
国鉄再建計画では地方交通費のうち輸送密度1日8000人以下4000人以上の約2000キロは鉄道の方がバスなどよりも経済的であるために経営を続けて,また輸送密度4000人以下でもバス転換不可能な約2000キロも国の補助で運営を続ける。それ以外のもののうち輸送密度1日2000人以下のもの約2000キロは1985年度までに残りの約1000キロ(輸送密度1日4000人以下 2000人以上でバス転換可能なもの)は1985年以降にバスに転換することにしている。しかしこれに対する反対は政治家を巻き込んで実現は容易ではない。
それに国鉄経営上,大きな問題は労使関連である。
それは単に繰り返される春闘をめぐる対立を言うのではない。それは表面上の対立に過ぎない。なぜならもし労使のペースアップをめぐって合意したとすれば予算の修正を伴うことになって,国会でこれらを通すことが難しくなるのである。
しかし交渉が決裂して,公共企業体労働委員会が仲裁裁定を引き出すと,その決定を労使が尊重しなければならないならない事は法的に決められているために,予算修正が容易である。このため春闘がスト突入,直ちに中止と言うパタンを含んでいるのである。
しかしこの事態を知らない株労働組合は反発して一部は民社党組合のようにストに反対して, 一部は新左翼の組合のように労働組合幹部日批判を強めて,労働対立問題が起きている。これが「山猫スト」を生み,貨物輸送を混乱させて国鉄日木貨物衰退の大きな要因となったのである。
それゆえに国鉄再建計画では労使関係の改善が改めて問題にされて,労働組合の協力の上に合理化が行われようとしている。このことが反面では地方交通線の分離など大きな構造改善政策を難しくしたしたのである。
ー学研百科事典Brummell,1981年,       

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