[岡山] 盆踊りの記録, 1965








 





年末(としづえ)の念仏踊り

#行事祭り

吉の盆踊りの素朴さに打たれていると,実は吉とほぼ遠からぬ吉備高原の一角に吉の念仏踊りよりまだ現始的な念仏踊りがあり,それは年末(としづえ)というわずか13軒の部落が,部落の外れにある観音堂の境内に集まって新暦7月16日に年中行事として行う念仏踊りで,かつては2回ばかり中止したことがあったが,2回とも部落内に伝染病が流行したので,それ以降は毎年欠かさず開催してるというからその信仰は現在においても根深いものがあるのであろう。

さてその夜がくると部落の人は家を空にして山田のあぜ道を歌いながら観音堂に集まってくる。堂に安置された仏に読経をすませ,予め用意した傘(簡単な割竹の骨組みに紙を貼り付けたものでそれに南無阿弥陀仏と書かれている)を被ってささら(切込みをつけた棒と割竹を組合せたもの)を持って輪をつくり輪の中央に胴丸太鼓が据えられる。何人かは割った大竹に「南無阿弥陀仏」と書いた紙の端をつけて輪の外に並ぶ。これが俗に言う音頭とりに当たるのであろう。この音頭とりが「ただいま据えまするは阿弥陀様のお念仏」と言うと,先達がさいはらを回して歩き始めて太鼓の単調な合図とともに,部落の人々は口々に「南無阿弥陀仏」と唱えてささらを擦りながらぐるぐると回る。

念仏踊りとはいえこの中に踊り的要素はみられない。念仏を唱えることによって浄土の世界を希う昔時の民衆の想いが感じられて,その行事が素朴であるほどに感動をうけ勇気づけられる強い感動を受けるのである。

ー岡山文庫, 岡山の祭りと踊り, 神野力, 1965


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