浅草地下鉄塔




1930年代の浅草
若草、花埃、たまだれ、雛菊、甘納豆、湯の花、里みやげ。。。
私は読むともなくそれらを読んだ。
雛段へでも飾るにふさわしい、色とりどりの日本菓子の名前だ。
フルウツゼリイ、キャラメル、チゥインガム、チョコレートなぞと、ガラスの中にならんでいるのだ。
地下鉄食堂の一階の売店だ。
そのお土産売り場の左が料理の見本棚。
   ご飯・パン・コォヒ・紅茶・・・5銭
   レモンティ・ソォダ水・・・7銭
   アイスクリィム・ケエキ・パインナップル・果物・・・10銭
   エビフライ・ライスカレェ・お子様料理・・・25銭
   ビフテキ・カツレツ・コロッケ・ハムサラダ・・・30銭
   ロォルキャベツ・ビィフシチュウ・・・30銭
   ランチ・・・35銭
「まあ、高いわ、およしになってよ。」
右のほうにエレヴェタァと並んで食券売り場だ。
「食べなければ、塔に登っちゃいけないってわけではないでしょう。
ほら御覧なさい。ちゃんと書いてある。
-地下鉄塔40メェトル、ご自由にお上りください」。
エレヴェタァの中は金梨地の蒔絵のようだ。
「いやだわ。定員13人だって。3年に250円で一日いくらにあたりますの?
上につくまでに暗算してよ。
これを買ったお菓子屋、年季奉公ですって。
3年250円だから、1年85円33銭3厘3毛、1月7円足らず。あら、もう6階なの?」。
-川端康成,浅草紅団

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