[神奈川横須賀] 横須賀田浦廃村~1997年で時が止まった村


[神奈川横須賀]  横須賀田浦廃村~1997年で時が止まった村
超怖い現代のゴーストタウン「田浦廃村」に潜入!ビビって足がすくむレベル、殺せの張り紙…横須賀の廃村を村田らむがルポ!
2019.10.03
―B級スポット、樹海や禁断の土地、ホームレス取材を得意とするルポライター村田らむが寄稿!
どんな観光地もいつかはなくなってしまう。このご時世だ。人気がなければサクッと閉館されてしまうし、たとえ人気があっても地震や火事であっさりなくなることもある。場合によってはテロリストが嫌がらせで爆破する、なんてこともある。そもそも本来は観光地ではない廃墟や廃村などは、よりアッサリと消滅する。
「ああ、コノ場所。いつか行ってみたいなあ……」
なんて言ってる間はないのだ。そんな今はもうなくなってしまった場所を紹介するシリーズ。今回は、もうすでになくなってしまった廃村を紹介したい。僕が2015年に訪れた場所は、神奈川県横須賀市田浦町にあった通称『田浦廃村』である。経験から言うと、廃村があるのは非常に僻地である場合が多い。都市から遠く離れた山中にあり、途中からは自動車が走れない道を40分歩いてやっとたどり着いた……例えばそんな場所が多い。
しかし『田浦廃村』があるのは田舎ではない。まず歩いて15分の場所に田浦駅がある。港には海上自衛隊の施設をはじめ様々な施設があり、山側は住宅街として整備されたくさんの一戸建てが並んでいる。いわゆる閑静な住宅街である。もちろん学校もあれば、商業施設もある。歩いていける場所にコンビニがある廃村というのは、とてもレアだ。
街中から歩いて、廃村に向かった。住宅地を『田浦廃村』がある方向に抜けると、横須賀線の小さな踏切があった。踏切を渡るとすっと雰囲気が荒んだ。道の端に、カビが生えて黒くなった看板が張り出されている。
『田浦町4丁目B急傾斜地崩壊危険区域』
と書かれていて、地図に赤ペンで数字がふられていた。地図の意味はよくわからなかったが、とにかく『ココが危険な場所である』ということだけは分かる。
そしてもうしばらく進むと、左に鉄骨が組み合わさって出来た施設が現れた。そこは『田浦変電所』だった。ここは生きている施設だったのだが、禍々しさを感じるほど巨大だった。僕は、廃村の近くにこんな施設があると知らなかったので、ビビって足がすくんでしまった。
集合住宅の前には『イノシシにご注意ください』という張り紙が出ていた。元々、山中で自然豊かな場所だが、今はもう自然そのものになりつつある。そりゃイノシシも出るだろう。イノシシは山などを取材をしていて、リアルに恐い動物の一つだ。他にも、スズメバチやマムシなども恐い。ふと汚れたブロック塀を見ると、ボロボロの張り紙が出ていた。ワープロで印刷したような手作りな張り紙だ。そこには
『この付近一帯に マムシ がいます注意して下さい。どんどん増えています 見たら殺してください』
と書かれていた。今まで見てきた中でも、トップクラスでこわい張り紙だった。思わず、ヒステリックな叫び声を上げながらマムシを踏みつけて殺している女の人を想像してしまう。しかし、もう蛇を殺す人はいないのだから、マムシも安心してウジャウジャ増えているのだろうか? それも恐い……だけど、やっぱり『見たら殺してください』って張り紙を貼る人のほうが恐い。
側溝には置きざりにされたのか、それとも誰かが捨てたのか、原チャリが埋まっていた。その近くには、子供用のロボットのオモチャが落ちていた。ゴミと一緒に捨てられているのを不憫に思ったのか、フェンスに立てかけられていた。日本のお城っぽい特徴的なデザインのロボットだったので、後で調べてみると『忍者戦隊カクレンジャー』(1994年)の無敵将軍というロボットだということがわかった。このオモチャで遊んでた子供も、今はもうそこそこのオッサンになってるんだろうな~と、思う。この廃村は
『いかにも当たり前にある、90年代の町並みから、急に人が消えてしまった』
という雰囲気がとても恐い。
ゾンビ映画などで、町並みは今まで通りなのに人だけいなくなっているシーンが描かれることがある。例えば『28日後…』では、人がいなくなったロンドンがとても象徴的に描かれていた。歩いていると
『なぜここから人がいなくなってしまったんだろう?』
という疑問が何度も頭に浮かぶ。それが恐い。
ただこの場所から人がいなくなったのは、バイオハザードのせいでも、呪いのせいでもない。れっきとした分かりやすい理由がある。
1997年から『湘南田浦ニュータウン計画』という、ここ一帯を再開発する事業が稼働した。そして住人の立ち退きが進んだ。稼働後もしばらく人が住み続けた家屋もあったそうだが、結果的には誰もいなくなった。外にスプレー塗料で書かれた数字は、施工者が作業の過程でつけたものだろう。
しかし、なぜか計画はそこで頓挫してしまう。
97年にスタートした計画ならば、計画が立てられたのはバブル前後だろう。バブル景気のイケイケのノリで計画を立てたが、どうやっても採算取れないと気づいてやめたのかもしれない。とにかく全員が立ち退いたところで、この村は20年間時間が止まってしまった。そんなとても珍しい場所だった。
僕が訪れた後、廃村前にバリケードが張られて、中に入ることができなくなったという噂を耳にした。実際、ネットで検索すると、バリケードの画像が出てきた。入れなくなって残念だなと思っていたら、今年に入りついに解体がはじまったという話が出た。建物を取り壊した際に出た、大量の廃材が運び出されたという。グーグルマップの航空写真で見てみると、田浦変電所は健在だったが、その周りの建物はキレイサッパリとなくなっていた。重機はまだ残されていて、作業をしていた。今後は『太陽光メガソーラー』が設置される予定だという。
奇妙な廃村は、ソーラーパネルが整然と並ぶ場所になる。変電所の近くにあるのにはむしろふさわしい建造物かもしれない。機会があったら、ソーラーパネルが並んでいる様子も一度見に行きたいな、と思った。
あの、
『この付近一帯に マムシ がいます注意して下さい。どんどん増えています 見たら殺してください』
の看板も、おそらく気にも止められないまま壊されて捨てられてしまったんだろうな~と思う。どうせ捨てるんなら、もらいたかったな~と思う。実際にもらったら、置き場に困るんだけど。
文・写真=村田らむ

TOCANA
https://tocana.jp/2019/10/post_116523_entry.html










村田らむ
ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター
1972年生まれ。キャリアは20年超。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教組織、富士の樹海などへの潜入取材を得意としている。著書に『ホームレス大博覧会』(鹿砦社)、『ホームレス大図鑑』(竹書房)、『樹海考』(晶文社)など。

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