田中康夫『ぼくだけの東京ドライブ』(私的アルバム選)〜Lani Hall, Neil Larsenほか










田中康夫『ぼくだけの東京ドライブ』(私的アルバム選)〜Lani Hall, Neil Larsenほか
◆Lani Hall『Blush』
Lani Hall『Blush』(AL AMP28024)
ハーブ・アルパートの妻である,ラニ・ホールは,このアルバムが5枚目のソロ・アルバムです。近頃,久方振りにA&Mからポップなアルバム『Sergio Mendes』を出したセルジオ・メンデスが,その昔も昔,60年代に率いていたグループ,セルジオ・メンデス・ブラジル66のリード・ヴォーカリストとして『A fool on the hill』なんぞを歌っておりました。
ご紹介のアルバム『Blush』は1980年の春にアリー・ウィリスのプロデュースで,リリースされたものです。 といっても「アリー・ウィリスなんて知らないよ」という方の為に一応の説明をしちゃうと,アース・ウインド&ファイアー,ディオンヌ・ワーウィック,それに1985年夏に,なんとレイ・パーカーのプロデュースでマイケル・マクドナルド,ドナルド・フェイゲン,レイフ・ヴァン・ホイ,マーク・ジョーダンらの曲をやってる画期的アルバム 『Ross』を出したダイアナ・ロスなんぞに曲を提供してきた女性ソングライターであります…
ところでおいしい紅茶の入れ方って知っております? ファトナム&メイソンだのロイヤル・コペンハーゲンだのと,有名ブランドの葉っぱを使えばおいしい紅茶が飲めると信じている人がおりますけれど,これは大間違いのコンコンチキです。カップをあっためるなんていう基本的マニュアルは,ティー・バッグを使って暴利をむさぼっているプリンス・ホテルならいざ知らず,当然のことでありますが,要はイット・ディペンズ・オン上手に葉っぱをポットの中で開かせるようなお湯の注ぎ方を習得するかどうか。この点に細心の注意を払えば日東紅茶だってインドやセイロンで採れた葉っぱをわざわざフランスまで一旦持っていって,それからもう一度,南アフリカの喜望峰由と,気温,湿度の変化に耐え抜いたフォション以上であります。僕の場合は食通と呼ばれる編集者が部屋へ来た時には,ファトナム&メイソンのオリーブ・グリーン色をした缶の中に入れてある日東紅茶の葉をおもむろにポットに入れて差し上げたりします。すると,なんと,みなさま,一様に「いやあ,さすが,ファトナム&メイソンはおいしいですな」とおっしゃられ,今のところ締切りに遅れた時などに効果を発揮しております。やっぱり,みんな,ブランドに弱いんですよね,って思っております。
さてさて,読書についてのお話をしちゃうと『ポパイ』とか『オリーブ』の書評ページvって,どうしてあんなにも暗いんでしょうね。まあ,そりゃ,何冊も本を読んで書評をするなんて作業は,もともとの本人が暗くなきゃ出来ない仕事ですし,おまけに『ポパイ』『オリーブ』の読者の中で,本の紹介ページを読む,なんて人は,同時に『ダカーポ』も読んでる様な人でしょうから,まァそれはそれでいいのかも知れませんけれど,でも,それにしても屈折した感じの書評欄でたまりません。 書評者と親しい人の本だけ集めてきてはおべんちゃら言ってるあたりも旧来のパターンと変わらないしね。で,話は発展して,その昔,岩波新書や岩波文庫を片っ端から読んで,毎朝,朝日新聞の天声人語に目を通すことが「知識人」になるための必要条件だと信じて疑わなかった人がいたでしょ。今日『ダカーポ』『ブルータス』 『スタジオ・ヴォイス』『ビックリハウス』『宝島』『広告批評』といった類の雑誌を,わざわざ池袋西武のブックセンターまで行って買う人は,新種の岩波・朝日文化人って気がしてきちゃいません? だって,別に,どこの本屋さんで買ったって同じことなんですよね,雑誌なんて。でもそれを,わざわざ,西武のブックセンターへ行くというあたり,マルベリーやゲラルディーニのポシェットを持ってる女の子を「ブランドに弱い」とか言って馬鹿にしているものの,その実は彼らも同じ次元にいることを証明しているようなものだと思えちゃいます。この手の新岩波・朝日文化人の困ったところは,精神的ブランドにコロリとまいっちゃう傾向が強くて,おまけにそのことに無自覚だってことです。たとえば文学の賞も,冷静に考えてみればルイ・ヴィトンとまったく変わらぬブランドに過ぎないのに,いい加減頭の中がヨイヨイになっていて,世の中の新しい空気を感じ取る感覚が鈍くなってる人たちが「これはいい」といったものを,無批判にそれを肯定して受け入れて,紅茶に入れるミルクは牛乳でないと,おいしくないと思いません? さすがに最近では,牛乳を持ってくるお店が増えましたけれど,でも冷たいまんま,って所が,また,ホテルのコーヒー・ハウスなんぞにもあるでしょ。あっためた牛乳をドッサリとね,ってのがイギリス風の気分なのに,牛乳のお代わりを頼むと,露骨にそうな顔をするサイクルとかラ・ブラッスリーなんてお店のある帝国ホテルは,ホテル全体のサーヴィス・マナー低下も含めて真剣に反省してみて下さい。 料飲部門のチーフ・クラスの人間にホスピタリティーがまったくないのが It cannot be helpedです。だもんですからしっかと仕事してた新入社員の子たちも,1〜2年たつとやたらあきそうなサーヴィスになっちゃうのです。ただし帝国ホテルの駐車場の係員だけは鋭く親切です。
ラニ・ホールは,1979年にはハーブ・アルバートのプロデュースで『Sweet Bird』を出していますし,1988年には『Albany Park』,1988年にはショーン・コネリーの『007 Never Say Never Again』のテーマ曲を含むベスト・アルバム『Collectibles』というなかなかのアルバムも出しています。この他ラス・カンケルの奥さん,リア・カンケルが1974年に出してる『Leah Kunkel』は,ピーター・マッキャンの『Step right up』,スティーヴン・ビショップの『Under the Jamaican moon』をやったりの名アルバムですし,イヴォンヌ・エリマン,1977年の『Love Me』,ビス・サドゥラーというキュートな女性シンガーが1986年にジャック・モラーリのプロデュースで,パリー・マン&シンシア・ウェイル,髪の薄くなったシンガーソングライター,スティーヴ・マースの曲なぞをやっている掘り出し物『Pia』,そしてブラジル気分なのに,なぜかしっとりとした雰囲気の女性シンガーヘレン・メリルの『Casa Forte』もお推めです。そして最後に,ビア・ザドゥラーの気分にも似ているシャーリ
ーン・ダンカンの『Sky Is The Limit』も静かな午後にふさわしいアルバムです。ビン・タックの入ったシキットブラウスにペーズリー柄のボウ・タイをして,おまけにサスペンダーまでしちゃっている彼女は,結構な苦労人なのにかわいい子ぶっていて,そこがなんともたまりません…
◆Lee Ritenour『RIT/2』
Lee Ritenour『RIT/2』(WPP11292)
リー・リトナーが1982年秋に出した『RIT/2』は1982年に『Dream Walkin' 』というソロ・アルバムを出しているシンガーソングライター,エリック・タッグと1981年にデイヴィッド・フォスターのプロデュースで『Runaway』というロックっぽいアルバムを出しているビル・チャンプリンらと共作の曲が入っております…
けれど,ファージョン系アーチストのアルバムの場合ってのは,どのアルバムを覗いても,いつでも同じようなアーチストばかりが参加で,このあたり,なんだか売れてる人も売れてない人も"ヘンタイよい子"というネーミングのもと,なんとか生き延びようとして,ギルドというか,互助会を作ってる『ビックリハウス』とか『ドリブ』『ブルータ
ス』といったジャンルの雑誌執筆者たちの,仲間うちでの仕事のまわしっこになんだか似ている気がして頭が痛くなってきます。というわけで,どれを聴いてもみーんな同じ金太郎飴的気分になってしまうフュージョン・アルバムが多いわけですけれど,そうした中で,このリー・リトナーのアルバムはかなりと良質であります。こうしたアルバムは,晴れた午後,世田谷の砧緑地公園とか,まだ空地が残る中になかなか良いおウチがある岡本のあたりを,二人でルンルンしながら車でドライブしている時にどうぞ…
◆Neil Larsen『Jungle Fever』(AL AMS 20019)
ジャケットが,なんともステキなニール・ラーセンは,関越自動車道を180km/h見当で,一路軽井沢に向けて走っている時に聴いてみましょう。だいぶくたびれたバック・スキンのシューズにブルー・ジーンズ。 シャツだってフラップ・ポケット付きの安手のシャツなのに,なんとも色合いが渋い。アルバム・デザインを手がけているのはチャック・ビーソンという人で,この人,今回の百枚の中にも入っているマーク=アーモンドの『Other Peoples Room』も担当しております。プロデュースの方はもちろんトミー・リピューマですから安心して聴けます。シーウインド,ニール・ラーセン,マーク=アーモンドと,録音時期は少し古いですけれど,どこかのビール同様に"時代を超えた名作"となりつつありますから,お金に余裕のある人は三枚一緒にまとめて買ってきてしまいましょう…
◆Shalamar『Friends』
Shalamar『Friends』(WPP11132)
その昔,日曜日の深夜『ソウル・トレイン』というテレビ番組がありました。 ドン・コーネリアスなる黒人おじさんが「さあさ,続いてはHot lineがヒット中のシルバーズ」なんて大げさな動作でご紹介するってえと,シルバーズがニコニコ登場。ステ
ージがスタジオの中に作られてあって,その上でルンルン♪なんて歌っちゃってたわけであります。でもって,なぜか,その他観客大勢といった風の若い黒人の男女も,わんさかフロアで踊り出しちゃったのね。番組の一番最後にはソウル・トレイン・ダンサーズっていう,もうとってもダンス(もちろん社交ダンスじゃありません) お上手青少年が曲に合わせてサーカスの曲芸師みたいな踊りを披露。 「フーン…やっぱし黒人の体は違うのだなあ」と感心しておりました。僕も僕の友人連も。この番組,世田谷区のはずれは喜多見にあります国本女子高に当時通っていた桜田淳子女史も,毎週ご覧になっていたそうで,こうした新宿歌舞伎町ディスコ・フリークが数多く通っていた高校では,かなりのレイティングを上げておりました。ってことは,もちろん,飯田橋にあって同じ駅から乗り降りする白百合や三輪田学園らしい女の子に,なんだかんだと因縁をホームでつけるのを趣味としている嘉悦学園
とか,京浜東北線の上中里駅の近くにあって,西ヶ原一丁目交差点の角にある古ぼけた本屋さんで百合族の雑誌『アラン』を買ってる子が多い滝野川女子高といったあたりでレイティングが高かったわけです。けれど,同時に,水道橋の駅から急な坂道を登ったところにあって,大部分の生徒はマークが二つくっついたバッヂをシッカと胸につけて登下校の真面目な子なのに,中に時々,とち狂ったことには,武蔵や開成の男の子と中二くらいから高部知子してる子がいたりする桜蔭(といっても麻布や塾高でないところがいかにも桜蔭っぽくていいですね,女学館や白百合,聖心女学院との違いだと思いません?),或いは川崎市はなんと南武線の中野島なんて周囲は田んぼばかりの駅から歩いて5分のところにあって,フランス系の修道会が経営しているものだから,英語はThis is a book 以外 からっきしダメなのに,仏語の方はComment allez-vous ? の一万倍くらい難しい会話までバッチリね,なんて不思議な子がいたりして,おまけにかわいい子を秘かに産出していることでも知られつつあるカリタス学園あたりでも「日曜日の夜はソウル・トレインね」という子が結構いたもんですよ。
まァこのあたりの学校の子は,新宿じゃなくて,当時,六本木にあった「スーパー・コップス」や「メビウス」に出入りしてたんですけれどね。「スーパー・コップス」ってのは,ある日突然にして閉店しちゃったディスコで,まあ,いってみれば「ナバーナ」と「マジック」のミニ版みたいなもんでした。ところで思い起こせば,今から5〜6年前にはステップなんてのがあったんですよね。一曲終って次の曲になると,一瞬みんなの動きがパタと止まっちゃったりなんかして,で,さりげなく横の人を見ちゃったりとかね。すると,毎日ディスコに来てます風少年が得意気に新式ステップで踊り出しちゃって,その他大勢のみなさんも「なあに私だって知ってます」ふりをしながらチラチラ盗み目でステップ修得に努めたのも今は懐しいお話でした。ディスコの従業員のお兄さんもJUNとかDOMONのバギー・パンツをはいていたのがいかにもディスコディスコしていて良かったでしょ。ほら,あの光沢のあるグレイのですよ…あれあれ。
話は元に戻って,シャラマーは,その『ソウル・トレイン』に出ていたのだそうであります,ダンサーとして。このアルバム『Friends』は,通算6枚目にあたるものでして,レーベルはと言えば軽快なダンス・ナンバーのアルバムを多く出している「ソラー(SOLAR)」。ソラーってのは「Sound of Los Angeles Records」の略称でして,シャラマーの他にもシルバーズとかウィスパーズのアルバムをリリースしてます。 シャラマーは男性二人に女性一人の黒人グループで,1980年には『Three For Love』,1988年には『The Look』を出ます。いずれも午後からディスコ気分に浸りたい人用の洗練されたアルバムです…
◆Sunfire『Sunfire』
Sunfire『Sunfire』(WARNER BROS. 237301)
首都高速道路ってのは,どうして片側2車線で建設しちゃったのでしょうね。 大阪の阪神高速道路なんて,片側4車線,5車線なんてところがあるでしょ。車線変更が大好きな僕なんか,とろい運転のタクシーに乗っていたりすると,ついつい運転手のおじさんと交代しちゃいたくなります。特に,プラスチック ・ケース入りの無事故・無違反表彰状を水戸黄門のキンキラ・バッジよろしくフロントガラスのところに置いてある個人タクシーおじさんの車に乗り合わせちゃったりするともう大変。車線変更をするのにもルーム ミラーで確認するだけじゃ不安らしくて,肩こりが激しいのにもめげずに,二回も三回も後方確認の首振り運動。で,それからウインカーをチーカー,チーカー出して,しっかと2〜3秒待ってから,もう一度後方確認でしょ。苛立ちます。女の子のドライバーにも,歴史家シュリーマンの親類かなって思うくらいにトロイの遺跡チックな運転をする人が多くいますけれど,車線変更の時には,まず横車線の後部に車がいようといまいとお構いなしにウインカーを出しましょう。 後続の車が「このトラックは安全運転宣言車です」なんてシールを貼っている佐川急便だったりすると,一瞬「このアマめ,下手な運転のくせにウインカーだけは一丁前に早めに出しやがって」 と運転しながら思っても「ウッ…安全運転,安全運転…」と心の中でつぶやきながら少しスピードをゆるめてくれるかもしれませんし,あるいは仮にこういうシールを貼ってる車の常で,非安全運転風に「フン,入れてやるもんか」で走られても次の車の前には入れちゃうでしょ。
ま,それはともかく,ジェームス・ムトゥーメとのコンビで多くの曲を作ってきたレギー・ルーカスが結成した黒人三人組サンファイアーは昼間の首都高速向きです。 多少フュージョンがかったソウルというか,ポップがかったフュージョンというかって感じですから,渋滞気味の時に聴いても多少イライラが収まりますし,昼間の12時半から,ちょうど首都高速が空いていて,ビューンと走れちゃう時間帯に,一ツ橋と浜崎あたりを走りながら聴くのもお似合いです。話を元に戻すと,首都高って,湾岸線の部分を除くと片側2車線がほとんどでしょ。でもなぜか,箱崎から江戸橋の間と,浜崎橋から汐留の間の二個所だけ三車線なんですよね。で3車線だと,急にマンハッタンのフリー・ウェイ気分になれます。ミシェル・ベルジュのところでも書いたように,隅田川大橋もマンハッタン気分ですけれど,浜崎橋〜汐留の間は,もっと気分であります。朝の8時台に,浜崎橋から汐留方向に向かうと,右手に竹中工務店の本社ビル,遠くには朝日を浴びた東京電力のタワーや帝国ホテルの本館とタワー,そして左手には汐留の場車場の貨車が見えて,ブラック・コンテンポラリー専門のマンハッタンのFM局がキャッチ出来たらますますなのにな,と思っちゃいます。まわりの車もさすがにリンカーンとまではいかなくても,黒塗りのプレジデントやグロリア,クラウンが多かったりで 「ウーム…ビジネスの匂いがする」の気分になります。で,まだまだ明るい初秋の午後4時頃には今度は汐留から浜崎橋方向へ向かって走ると雰囲気が出ます。特に日曜日のその時間帯だとガラガラですからブーンと100kmh。木が一杯の,左手にある浜離宮をチラと見ながら行くと,なんとつい最近まではヨット・ハーバーまであってあせり狂いました…

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