2001年から来た機械 (小説)

2001年から来た機械 (小説)
横田順彌
1982.5
「君がどう思うと勝手だが、私は嘘偽りなく、西暦2001年の最高のロボット技術を駆使して作られたロボットなのだ。このホチキスは小型だが、一度に10センチメートルの厚さの書類を止めることができるし、この電卓は、使う人間の寿命計算までできるのだ」。
uso800は語気強く言った。
「まさかそんなおもちゃみたいな道具が。。ちょっと見せてもらってもいいかい?」。
俺はそう言いながら、マジックハンドの先のホチキスを手に取ってひっくり返してみた。まるでままごとセットに入っているような小さなホッチキスた。しかも少し離れて見ていた時は、それよりも精巧な作りに見えたが、目の側に近づけてみるとかなりちゃちな感じだ。
少なくとも超高級な性能を持つ機械にはみえない。それは万年筆にも、電卓にも、ドライヤーにも言えたが、じっくり手に取ってみるといかにも安っぽい感じがするのだ。ロボットどころか、ブリキのおもちゃだと言われていも信じてしまいそうな気がする。(待てよ?これは本当にブリキのおもちゃないんじゃないのか?大体、西暦2001年の世界からロボットがタイムスリップしてくるなんて話を、真に受けていいものだろうか?)
uso 800を見つめている俺の心の中に、そんな気持ちがじわじわと広がってきた。
(あと20年足らずで、物質伝送装置や、ワープ航法エンジンが完成するというのも眉唾ものだぞ?そうすると、これは誰かのいたずらだ。この銀色の玉の中にスピーカーが入っていて、何者かがどこかからの線を使って。。)
そこまで考えたとき、 uso 800が俺の思考を打ち破るように、大きな声を出した。
「どうだい?もうそろそろ私の性能を分かってもらえたかな?」。
「え?」
思いがけない uso 800の言葉と同時に、心の中に広がりつつあった疑惑がすっと消えていった。とはいえ、一瞬自分に何が起こったのかわからず、唖然としていると再び uso 800が言った。
「まだ分からないかな?さっき説明しただろう?私は調べれば調べるほど、信じられなくなるような性能を持ったロボットなんだって」。
「え?じゃあ、僕が君の部品を見ているうちに、だんだん話が信じられなくなったというわけか?」
俺は、ようやくそこで uso 800のいう意味に気がついた。
「そういうことさ。私は、私がどういう性能を持っているか調べようとする人間の心に、ある種の催眠電波で働きかけ、相手が信用できなくなるようにする性能を持ったロボットなのだよ」
「なるほどだがそんな性能のロボットが、西暦2001年の世界の各国首脳の所に送られていって、一体どんな働きをしようと言うんだい?」
俺が訊ねた。すると、 uso 800は俺を小バカにして鼻でせせら笑うような口調で言った。
「それは、無論、正しい機械の使用法を知らない人間達に変わって、我々機械が国家を運営するユートピアの理想社会を建設するためさ。我々はそれぞれ、ある国の首脳へ、プレゼントと称して別の国の首脳のもとに届けられる。すると今君が体験したように、受け取った首脳は、プレゼントした国の首脳が信じられなるというわけさ。たちまちのうちに、世界中の首脳たちは、お互いを信じられず、疑心暗鬼になって戦争だ。人間社会を壊すことなんて簡単なことさ。21世紀を機械が人間に尻を拭かせる時代なんだよ。これまで、機械をおもちゃにしてきた当然の報いだがね。。」。
-BRUTUS 1982年5月号 特集テクノライフ

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